実戦派を育てる図解不定期連載 第2回 「うちの68の電源がぶっ壊れちゃったにょー困ったにょー大作戦(目からビー ム)」 中村隆生 ━━━━━ ■はじめに 最初にお詫びです。先月アールエスコンポーネンツのことをご紹介しましたが、 個人では注文できないということでした。ご迷惑をかけたかと思いますがお詫び 申し上げます。 いいですが前回の連動電源。全然まったく1個も売れませんでした。皆さんこ こを読んでないのか、そもそも連動電源なんかいらんのか、私にはよく分かりま せん(両方だったりして)。 ━━━━━━ ■今回のネタ 今回は電源です。68の電源ユニットがぶっ壊れたという悲劇は、全国各地で 起きているようで、MK-CC011 の受注も留まるところを知りません。商売的には もちろん売れた方が良いんですが、この製品に限っては、売れた=電源が壊れた ということなので、たいへん複雑な心境であります。 さて、Windows マシンというのはたいていが AT 互換機な訳ですが、最初の AT 互換機の電源というのは制御なしでした。もういきなり入っていきなり切れ る。このタイプの電源は、制御がないだけでなく、サービス電源(前面のスイッ チが切れていても生きている 5V 系統)もありませんから、X680x0 の電源ユニ ットの代替としては使いづらい代物でした。 しかし Windows マシン側の方で(細かいいきさつは知りませんが)「これで はいかん」ということになり、ATX 規格として、電源の制御が行われるようにな りました。そして、自分で組み立てるマニアの方のために、制御機能付きの電源 ユニットが安価で販売されるようになったという訳なのです。これを利用してし まおうというのがMK-CC011「ATX 電源接続キット」のコンセプトです。 配線が楽になるように、大きい基板にしたところ、結構なお値段になってしま いましたが、はんだ付けに慣れていない人でも X680x0 を確実に復活できるよう に設計しましたので、どうかご容赦いただきたいと思います。 ━━━━━━━━━━━━━━ ■電源がぶっ壊れるメカニズム X680x0 の電源系統は、前面スイッチを入れるとオンになる普通の電源系統の 他に、常に生きていて、キーボードコントロールや SRAM バックアップを行う、 「Vcc2」という電源系統があります。常に生きているということは、電源ユニッ トの該当部分には、わずかですが、電気が流れっぱなしの場所があるということ になります。 ところで、電源ユニットというのは、ご家庭の交流 100V から、X680x0 で使 う 5V / 12V / -12V を作り出しています。早い話が交流から直流への変換をや っている訳です。 非常におおざっぱに言うと、直流を作った直後というのは、ちょっと電圧が波 打っています。しかし、直流の電圧は安定していないと困るので、電解コンデン サに波を吸い込ませて、平らにします。これを平滑(へいかつ)と言います。 ところが、電解コンデンサには寿命があります。コンデンサの中身には、電解 液が染み込んだ紙とかが入っているのですが、これが化学的にへこたれてしまう のです。寿命をお迎えになると、波を平滑しきれなくなります。そうなると、そ のコンデンサの後ろの回路に悪影響が出ます。これで故障するという可能性がひ とつ。 電解コンデンサが寿命をお迎えになって平滑しきれなくなった時に、電解液が 洩れることがあります。この液、電解液ですから電気を通してしまいますが、運 が悪いと基板に垂れて、さらに運が悪いと、導通させちゃいけないところどうし を導通させてしまったりすることがあります。これで故障するという可能性もあ り、こっちの方が被害が甚大になります。 こういった故障を起こさせないためには、寿命の長いコンデンサを使うという 手段がありますが、電源ユニットの中には電解コンデンサがたくさん使われてい ますし、オーディオ用途と違い、良いコンデンサに替えればいいというものでも ありません。ESR が違うとかいった、設計に合わないようなコンデンサに変える と、異常発振してしまい、最悪の場合は壊れてしまうこともあります。けっこう リスクがあるので、寿命を迎えた電源ユニットは、修理するより取り替えた方が はるかに安全なのです。それに、電源用のでっかいコンデンサはけっこうなお値 段がします。それなら出来合いの電源ユニットを買ってきた方が良い、と言うこ とになります。 他の手段として、68の主電源をいちいち切るという手法もありますが、めん どくさいですし、今度はバックアップ電池がへこたれます。突入電流も無視でき ません。 とにかく、かいだことのないようなくさい匂いがしたり、電源の動作がちょっ とでもおかしいと思ったら、だましだまし使ったりしないで、すぐに電源を交換 するべきでしょう。 あとは逆転の発想として、壊れていないけれども見込みで電源を変えてしまう というのもアリだと思います。もうすぐ寿命だと判断して、故障はしていないけ ど新しい電源ユニットに交換してしまうわけです。そうすれば、「いつ故障する か」とおびえながら使うようなことはなくなります。 ATX 用電源ユニットには、台湾製や韓国製の激安のものから、設計のしっかり した日本製の電源まで、それこそピンキリで売られています。別に台湾製や韓国 製がしっかりしていないという訳ではありません(いや、しっかりしていないも のも散見されるのは事実ですが)。ただ、日本製の高価な電源ユニットは、その 分余裕をもった設計になっているので安心です。 個人的な意見としては、5千円未満のものは避けた方が良いように思います。 設計のしっかりしたものを選ぶようにお勧めしますが、さきほども書いた通り、 良い電源はそれなりに高価です。1万5千円ぐらいが目安でしょうか。安心が買 えるのだと思えば安い買い物ではないでしょうか。 X680x0 の電源ユニットの寿命は公表されていませんが、使われている部品や、 ユーザーさんの手もとでの電源の壊れ具合からみて、平均で6年程度と考えた方 がよさそうです。平均ですからもっと早期に壊れるものもあるでしょうし、もっ と長持ちするものもあるでしょう。それは使用する環境(周囲の温度とか)や使 用頻度にもよるので、一概には言えません。とにかくマザーボードより先に電源 がお亡くなりになる、という傾向があるのは事実です。 ━━━━━━━ ■本体をバラす 今回は、初期のツインタワー型機ということで、ACE を実験台にして解説を行 います。基本的にはどの機種でもやることは同じです。 電源ユニットは、向かって左側のタワーに入っていますので、まずは左側のタ ワーの側板を外します。側板は3本のビスで固定されていますから、まずはこれ を外します。 ◎側板のビスを外す なお写真の本体は、逆側のタワーのパネルがすでに取り外し済みなのがご愛敬 です。 側板は、前面パネルと、3箇所の爪でひっかかっています。 ◎爪の場所 側板の方を押してやりながら、背面方向に押し出す感じで外します。爪を3箇 所外してからでないと側板が動きませんから、上の方から順に爪を外してやりま しょう。 ◎両手の親指で力をかけて外す 爪が外れれば、外板が少し背面方向にずれますから、そのまま背面方向に押し てやります。下の方が別の3箇所の爪でひっかかっていますから注意して下さい。 ◎後ろにずらす 文章で説明するのは難しいですが、まあ実際にやってみるとすぐ分かると思い ます。 そうすると電源ユニットと FDD ドライブユニットが姿を現します。電源ユニ ットは4箇所のビスで止められていますが、HDD が内蔵されていない場合には、 写真の電源ユニットの右側に見えるような金属板も外さなければなりません。 ◎電源ユニットのビスの場所(その1) ◎電源ユニットのビスの場所(その2) 本体各所に接続されているコネクタも外します。まず、底面基板ユニットに接 続されているIコネクタ・Aコネクタを外します。両方とも、力を入れるだけで 引っこ抜けます。右隣のフラットケーブルは、両側の爪でひっかかっています。 ◎底面基板のコネクタの場所 ◎コネクタを外したところ また、逆タワー側に回っているBコネクタを外します。 ◎Bコネクタを外したところ Bケーブルはタワーを横断するように走っていますので、電源ユニット側のタ ワーから引っ張ってやります。 ◎引っ張る 次に、FDD 用の電源コネクタを外します。指が入りにくいと思いますので、電 源ユニットを外した後にコネクタを外しても構いません(他のコネクタについて も同様のことが言えます)。それぞれのドライブに一つずつコネクタが付いてい ますので、両方外して下さい。 ◎ FDD 電源コネクタの位置 これで電源ユニットを取り外すことができます。 ◎電源ユニットを外す ━━━━━━━━━━━ ■電源ユニットをバラす 電源ユニットはあちこちがビスで止めまくってあります。2枚の写真で、ビス の場所を示します。 ◎ユニットのビス(その1) 裏から見た図です。空冷ファンの上にも2個あるのに注意して下さい。これは 実は外さなくても分解できそうな感じなのですが、取った方がはるかに楽です。 ◎ユニットのビス(その2) これで、電源ユニット上側の蓋が外れます。外しにくいかと思いますが、左右 を交互に持ち上げるような感じで外してやると良いでしょう。 ◎上側の蓋を外したところ 蓋の方に AC ケーブルとかサービスコンセントとかが付いてますので、電源ユ ニット基板から外します。これも引っ張るだけでよろしい。 ◎上側の蓋を外したところ これで電源ユニットの基板が見えるようになりました。 ◎基板を上から見たところ もし部分的に黒く変色したり、液状のものが付着したりしていれば、電解コン デンサの異常による故障だと考えて間違いないでしょう。 ━━━━━━━━━━ ■ケーブルを加工する 各種の電源ケーブルは、電源ユニットの出口近くで、インシュロック・タイ (商標名)というケーブルまとめ用の工具でまとめられています。まずはこれを ニッパーなどで切断します。ケーブルを傷つけないように気を付けましょう。 ◎インシュロックを切断する 次に、電源ケーブルを根本から切断します。もったいないと思うかも知れませ んが、どうせ保証なんか効かないんですし、修理してもらおうにもシャープさん の補修用部品も一部が枯渇しているようですし、修理してもらえたとしても修理 代がめちゃめちゃ高くなりますから(実証済み)、ここは思い切ってばっさりや っちゃって下さい。 あと、なるべく根本で切らないと、後で長さが足りなくなって泣きを見ること があります。 ◎ケーブルを切断する 各機種によって異なりますが、すべての電源ケーブルを取り出せば準備完了で す。 ◎ケーブルを取り出したところ ケーブルには、色が同じでも、太さの違うものが混じっています。写真をよく 見ると、太さの違いが分かると思います。混同しないように注意して下さい。 ◎色は同じでも太さの違うケーブルの例 おっとその前に、基板にはんだ付けしやすいように、予備はんだを施しておき ましょう。まずは、ケーブルの被覆をむきます。写真のように、ワイヤーストリ ッパー(皮むき器)を使うと、死ぬほど楽です。電子工作好きならぜひ持ってお きたい工具のひとつであります。 ◎皮むき器 それがない場合は、カッターナイフを軽く当てて、配線のほうを転がすように してやると、うまくむくことができます。中身まで切らないように注意。 ◎カッターで代用 時々、ライターで被覆を燃やす人や、はんだごての熱で溶かす人がいますが、 燃えかすが残ってはんだ付け不良の原因になったり、はんだごてに被覆の溶けた かすがくっついて汚くなったりしますので、私はお勧めしません。 むき終わったら(もしくは、むいた端から)、予備はんだを行います。はんだ めっきとも言います。前回もやりましたね。 ◎予備はんだ ━━━━━━━━━━━━━ ■キットの基板を組み立てる いよいよ基板の組み立てであります。MK-CC011 は、次のような構成になって います。 ・基板 4層基板です。電源層とグランド層がプレーンになっていますので、特性はば っちりです。 ・ATX 電源用コネクタ(白いやつ) 市販の ATX 電源ユニットがすぐに接続できるように、規格品を使っています。 ・TTL(スポンジにささったゲジゲジ) 電源制御信号の論理が、X680x0 と ATX とでは逆なので、信号を反転させるた めの TTL です。今回は 74LS04 という TTL を使っています。 ・抵抗(緑か水色の、両側に足が出ている部品) 信号をプルアップするための抵抗です。 ・積層セラミックコンデンサ(水色の、同じ方に足が出ている部品) TTL 用のバイパスコンデンサ(パスコン)です。まあ、誤動作防止用のお守り みたいなものだと思って下さい。 ・OS コンデンサ(赤い円柱形の部品) 電源安定用のパスコンです。これも一種のお守りです。変動に強く、逆挿しし てもめったに開封しない、OS コンという特性の良いコンデンサを使っています。 ◎内容物 以上の部品をはんだ付けしていきます。取説にも注意がありますが、TTL と OS コンには極性(方向)があります。逆に付けると燃えたり爆発したりします。 たぶん。 ◎ TTL のはんだ付け OS コンの極性の見方は、「銀色の線が引いてある方がマイナス」です。基板 にはプラスの印が印刷してあります。 ◎ OS コン(写真はマイナス側) すべての部品をはんだ付けしたら、次はケーブルのはんだ付けです。 ━━━━━━━━━━━ ■ケーブルのはんだ付け どこに何をはんだ付けしたらいいか、基板にケーブル名・信号名・配線の色を いちいち印刷しておきました。どうでしょう。白いコネクタには、コネクタの記 号が印刷してありますから、それを参考にして下さい。 ◎ FDD ケーブル ◎Bケーブル ◎Aケーブル ◎Iケーブル 場所を確認したら、一本一本はんだ付けしていきます。 ◎ケーブルのはんだ付け ここで怖いのが、はんだ付け不良であります。電源線が隣接しているので、隣 どうしをショートさせると、あっという間に故障します。火事になってもおかし くはありません。 ◎はんだ付けミス 写真は説明のためにわざと分かりやすく接触させた例ですが、こんなのはすぐ 分かります。細くショートするのが一番分かりづらく、プロでも怖いと感じる状 態です。 こういう時はニッパーで切っても良いです。 ◎カット後 写真のニッパーは逆向きになっていますが、気にしないで下さい。 これで基板は完成です。やったね。 ◎完成 テスターなどで導通検査をやるのであれば、この時点で行って下さい。 ━━━━━ ■組み付け 完成した基板を、本体に仮止めします。ビス2個をゆるく締めて下さい。きつ く締めると故障の原因になります。 ◎仮止め部位 コネクタ類を背面基板と逆側のタワーに接続して、本体側は準備完了です。 ◎準備完了 あとは、CC011 基板に ATX 電源ユニットを接続すれば完成です。取説にある ように、火入れ試験を行って下さい。うまく生き返ってくれると良いのですが。 ━━━━━━ ■次回の予定 次回のネタは、X68kのメンテナンスをやります。FDDとか、バックアップ用電 池の替え方を解説します。 (EOF)